色彩交想曲
原作とらえずん/人類連合暫定行政委員会
序章 連鎖空還
作 ロジュウ・イムハタ
第二話
■
事の発端は、西暦2845年時の「ある物質」の発見より以前に、西暦2806
年の「ある理論」の提唱だった。
――入り口側から「同次元異空間」に入り込み、同次元異空間から出口側に出現
する。
この時、出口と入り口の空間に「門」が開く。――
通称「門章」理論である。
実現すれば宇宙開拓における、時間・距離・コスト等のあらゆる問題を解決する
事が可能となる。
ちなみに提唱した人物、物理学者ティルサット・アルへの口癖は決まって
「これさえ可能となれば遠距離恋愛も問題では無くなる。」
だったそうだ。状況から判断するに、この言葉は彼自身の魂の叫びだったと思わ
れる。
しかし現実は残酷だ。計算時に算出される、物質の重量(グラム)×900兆
ジュールのエネルギーを解決する術が提示されない限り、この理論は賢者の戯言
で片付けられてしまう。
その後、救いの手は大分遅れて訪れた。が、その時点でティルサットは既に意中
の女性と結婚し、三児の父になっていた。よって、無責任な話だが提唱者御本人
の熱意はとっくの昔に冷めていた。
西暦2828年、哲学者ガゼルキ・グワソスなる人物がある特性を発見する。
――二つの同一紋章を描いた門章は共鳴し全く同じ状態になる――
この特性は門章の第二法則、通称グワソス効果として知られる事となる。
こうして門章理論は型を少し変え、「第二種門章航法」として実現化される事と
なる。
おかげで、遅々としてなかなか進まなかった宇宙開発は少しずつ加速し始めた。
この時点での西暦は2835年。これらの事は歴史教科書にも記されている。
しかし、以降の出来事は少し事情が異なる。
西暦2845年、新物質の発見により「第一種門章航法」が利用可能となる。
しかし不可解な事に、この物質を「発見」と称しながらも正確な経緯はまったく
明かされていない。そして、この新物質には問題があった。
所有権を巡る争いである。
あらゆる物質に何らかの影響を与え、そのどれもが人間にとって有益な特性を発
揮するとなれば、その物質を制するものがこれからの世界を掌握するといっても
過言では無い。
人々の生活の水面下において、企業間戦争が勃発。・・・多くの血が流された。
介入が遅れた事によって起きた惨劇を終わらせる為に、人類連合は企業に新たな
容を要請する。互いが凌ぎを削る競争から共存へ。新物質をめぐり、未知を英知
へ変え、真価を引き出す組織。「防御と破壊の軍隊」に対し、「生産と追及の群
体」。
Groval Union of Indastory――通称「GUI」と名乗る企業連盟の誕生である。
そして、多くの血が流れた事への懺悔からか、あるいは無自覚に利用している民
衆への見せしめだったのか。新物質は「Calamity:禍」と名付けられた。
■
――心囚われれば、曖昧模糊とする。
身に纏わりつけば、自我を意識させる。
この世界に満ちているモノは、雨に打たれる感覚によく似ている。――
「『雨』、何眺めてんの?」
アイリスはお目当ての人物を見つけると、にぎやかに走ってきた。
『雨』――産み出された新しい命は、この様に名付けられた。アイリスからす
れば、もっと可愛い名前を自分が考える方が理想的だった。しかし、名付けられ
た当人がその名前を気に入ってしまった為、正式名称として決定する事なった。
今でも何故、ジェス達が弟にそんな名前を付けたのかアイリスにとって謎だ。
しかしそれ以上に不満な事は、二人が共に居られる時間が、彼女が望む時間より
はるかに少ないというこの現状だ。互いに披験体として多忙な毎日だった。
風景から目を離し、雨はアイリスに柔らかな笑顔を向ける。
「姉さん、そんなに慌てなくても僕は逃げませんよ。」
「何言ってんの、雨が逃げていかなくても時間が逃げていくんだから。諺にもあ
るでしょ。ずばり『時は金なり』!」
「満面の星が見通せるこの場所で、そんな言葉を吐く姉さんのセンスが素敵で
す。」
この部屋は人が寛げる空間として設定されている。主な特性として、現状の周辺
をプラネタリウムの如く、華麗に部屋全体に映し出す事があげられる。むしろ、
それ以外機能が無いという方が正しい。他所がいろいろと改造されている中で、
数少ない原型を留めた空間だった。
そして雨が産まれてきてから一週間足らずで、この場所は姉弟の待ち合わせ場
所となっていた。
「でさ、何見てたの?いや、見るものは星しか無いけど、とても星見てる雰囲気
じゃなかったから」
「・・・見ていたわけではありません。ただ、見えないものが肌に纏わりつく感
覚を楽しんでいただけです。・・・って、御守り握り締めて何ぶつぶつ唱えてい
るんですか?」
隣に座り込んでいたはずのアイリスは、2mほど雨から距離をとり、「家内安
全」の御守りを握り締めて何事かを呟いていた。効力はあまり無さそうだが、気
迫がそれを補って余りある。
「待ってて。雨に取り憑いている悪霊を追っ払ってあげるから。」
そして今までに無い真剣な眼差しで雨を睨みつめていた。
お互いに対峙し、ほんの一瞬沈黙が過ぎる。突如、雨はクスクスと笑い出し
た。
「ああ、違いますよ。すいません、姉さんはお化けが大嫌いでしたっけ?」
「べ、別に嫌いじゃないよ?ほんのちょっと、チョビッとだけ怖いだけだよ?」
相変わらず「家内安全」の字が眩い紫の御守りを雨に突き付けながら、アイリ
スはそわそわと周囲を見回した。第三者の何者かに会話を聞かれる事を恐れてい
る様だ。
雨は相変わらず可笑しそうに笑いながらアイリスに忠告する。
「大丈夫ですよ。大嫌いという言葉を聞いて怒るお化けなんて此処には存在しま
せん。」
アイリスの瞳が「何でそんな事が言い切れるの?」と訴えていた。雨は説得を
続ける。
「この船が、どの様な経緯で実験場になったかご存知ですか?」
「ううん、知ら・・・」
「この船は、本来観光船だったんですよ。とびっきり昔の。」
解り切っているアイリスの返答を無視する形で雨は説明を始めた。
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